地方創生を成功させる3つのポイント「海士町はなぜ注目されるのか」

地方創生を成功させる3つのポイント「海士町はなぜ注目されるのか」


「地方創生」などの政府の地域活性化策を批判するのは簡単ですが、疲弊した地方が地域活性化を必要としていることは否定できません。そこで、「まち・ひと・しごと創生会議」でも注目されている島根県隠岐郡海士町の取り組みから、地方創生を成功させる3つのポイントについて考察したいと思います。

目次

1.注目される海士町
2.【ポイント1/3】「守り」の戦略:身を切る行財政改革
3.【ポイント2/3】「攻め」の戦略:島をまるごとブランド化
4.【ポイント3/3】「続ける」の戦略:外部との交流と人づくり
5.【まとめ】地方創生を成功させるには?

地方創生で注目される海士町

平成26年11月6日に開かれた、第3回まち・ひと・しごと創生会議にて、小泉政務官が行った現地視察のひとつとして、海士町が紹介されています(小泉政務官説明資料)。この資料では、海士町は「「守り」の行財政改革の実施、「攻め」の産業創出と島留学」と表現されています。この「守り」と「攻め」がポイントとなります。

島根県隠岐郡海士町は、日本海の島根半島沖合約60kmに浮かぶ隠岐諸島にある、1島1町の小さな島です。対馬暖流の影響を受けた豊かな海と、名水百選(天川の水)に選ばれた豊富な湧水に恵まれ、自給自足のできる半農半漁の島です。「隠岐」と聞けば、後鳥羽上皇や後醍醐天皇が流された島を思い出す人も多いでしょう。人口は2400弱です。本土(島根県の本州側)から海士町までの所要時間は高速船で約2時間、カーフェリーで3時間弱から5時間弱かかります。

山内道雄町長曰く、「超過疎、超少子化、超高齢化」の島であり、「公共事業で生きてきた島」でした。そして、他の地方自治体と同様、三位一体の改革による地方交付税の大幅な削減によって、財政再生団体に転落するかもしれないという危機的状況に直面したといいます。
このような離島がなぜ今注目されることになったのでしょうか。海士町の3つの注目ポイントを考察します。

【ポイント1/3】「守り」の戦略:身を切る行財政改革

第1のポイントは、「守り」の戦略:「身を切る行財政改革」です。給与カットについては、平成16年度は、町長30%、助役、管理職、議員、教育委員20%、一般職員10〜20%の減額。平成17年度は、さらに、町長50%、助役、議員、教育委員40%、職員16〜30%までカット率を下げました。職員数も削減されました。

そもそも、通常は給与カットや人員削減は働き手のモチベーションを下げてしまいますが、海士町の場合は、「日本一安い給料で日本一働く町職員」と言われています。なぜ給与カットを始めとする行財政改革を行っても、職員のモチベーションが下がらないのでしょうか。
その答えの一つは、海士町の戦略には「守り」とともにビジョンがあるからです。給与カットで浮いたお金がどのように使われるのか不透明なままでは、あるいは全て借金返済に回されるのでは、カットされた職員たちは浮かばれません。町長は「給与カットで浮いたお金は“未来への投資”に使う」と宣言しました。

役場の意識改革や組織改革もビジョンを持って行われました。例えば、「お役所仕事」から「行政は民間企業」という職員の意識の転換がうたわれました。そして、次の「産業3課」が設置されました。

 ・観光と定住を担う「交流促進課」
 ・第一次産業の振興を図る「地産地商課」
 ・新たな産業の創出を目指す「産業創出課」

なかでも特徴的な組織は「地産地商課」です。これは「地産地消」の誤植ではありません。「観光客に海士に来てもらい、そこで海士のおいしい農産物、海産物を食べてもらう」だけでなく、「島の産物を地域外に持っていって、地域外の人に買ってもらうこと」を目指しています。そのための“商”です。
これらの産業3課は、町役場ではなく、「承久海道 キンニャモニャセンター」内に置かれています。キンニャモニャセンターは菱浦港ターミナルとしての機能はもちろん、海士町観光協会や海士町漁協の直売店「大漁」も入っている、情報発信・交流地点です。産業3課の存在によって、町が産業政策に力点を置いていることを、町職員だけでなく、町民も、そして外部からやってくる来訪者(町にとっては“外貨獲得”の相手)も理解することができます。
まずは役場から身を削り、ビジョンを持って改革を行うことで、住民や企業などに「本気」を見せたのです。

【ポイント2/3】「攻め」の戦略:島をまるごとブランド化

第2のポイント、海士町の「攻め」の戦略を考察します。
まず、具体的な施策・事業を行うには目指すべき姿・ビジョンが必要です。企業であれば企業理念があるように、自治体では基本構想や総合計画などがあります。海士町の場合、「キンニャモニャ宣言」(第3次総合振興計画)があります(以下、抜粋、下線を加えたのは著者です)。

あらゆる人々との間でさまざまな交流を進め、新しい海士町づくりに行政と住民が力をあわせて取り組みましょう。「人は海士を訪ね、交流を重ねて海士を好きになり、この地を求めて暮らしはじめる。」そんな願いをこの囃子ことばに込め、私たちの取り組みは歩みをはじめます。

生き残りをかけ、まちの自立を目指していかなくてはなりません。そのためには、海士の良さをさらに高め、町外に向けてアピールし、海士町の存在意義をはっきりと打ち出すことが求められているのです。山と海の両方から恵みを受け、自然と共に生活するすばらしさをかみしめ、老いも若きもキンニャモニャを歌い、踊り、健康や農作や大漁を祝い、感謝する町。そんなまちづくりを目指しましょう。

現在注目されている取り組みは、このようなビジョンが施策・事業という形になって現れたものと考えられます。

ちなみに、先ほどのセンターの名前にも付いていた「キンニャモニャ」とは、海士町発祥の隠岐民謡です。この「キンニャモニャ」のような地域独自の言葉や民謡、あるいは後鳥羽上皇の歴史の物語は、非常に重要な地域資源です。「キンニャモニャ」って、何だろう?と、外部の人は必ず疑問に思うからです。疑問に思えば、調べようと思います。そうすると、海士町の歴史文化に到達するのです。このように、標準語にして誰にでも分かるようにするのではなく、あえて地域独自の言語文化を積極的に活用する手があります。地域の「差異化」・「付加価値」と言い換えることもできます。あるいは、「地産地“商”」課のように、見た人が「誤字ですか?」などと言ってもらえれば、「いえいえ、実は・・・」と説明するきっかけとなり、その意味でも海士町は非常に情報発信力の優れた地域であることが分かります。

次に、海士町では、「ないものはない」を合言葉に、さざえカレー、島留学、隠岐牛、CASシステムによる海産物など、「島をまるごとブランド化」する戦略をとっています。例えば、「島じゃ常識 さざえカレー」は、「モノづくりからの地域おこし」を目的として、海士町で日常的にとれるさざえを具材として商品化したものであり、海士初のブランド化を目指して作られたといいます。「サザエの肝もカレーに練りこまれた、ちょっと苦めの面白いカレー」です。現在では年間約2万食を売り上げるといいます。

また、隠岐牛は「島の隠れた名産」です。(有)隠岐潮風ファームによれば、「島生まれ、島育ち、隠岐牛」の定義は、「隠岐島(海士町、西ノ島町、知夫村、隠岐の島町)で生まれ育った未経産の雌牛、日本食肉格付協会で肉質等級が4等級以上の格付けを受けたもの、隠岐牛出荷証明書が発行されていること」です。
同社の親会社は飯古建設であり、島の公共事業を担っていた会社です。先に見たように、町は行財政改革を行い、その結果公共事業が減ったため、建設会社も売り上げが落ち込みました。新しい事業を模索する中、「自分の会社の生き残りだけでなく、島の生き残りのため」にも、畜産業を開始しました。
しかし、離島ならではのハンデがあります。例えば、飼料を島まで運んだり、育った牛を市場に運んだりするには、かなりの輸送コストがかかります。また、牛の肥育について詳しい人材も不足していました。しかしコストに見合うには、1kg2500円以上、最高ランクA-5等級でなければなりません。
同社は2年をかけて育て、市場に隠岐牛を出荷すると、初めての競りで3700円代がついたといいます。その後も、市場にブランドとして認められるためには、品質の安定化と頭数の確保が必要であり、改善を重ねながら、出荷体制を確保しています。

このように商品の「地域ブランド」化は、公共部門のみでは難しく、民間企業の自助努力によるものが大きいですが、成功すれば地域の内外に「存在意義」を示し、結果として地域の誇りにつながります。観光産業など他の産業との連関性も確保できれば、地域経済の活性化にも寄与することになります。

【ポイント3/3】「続ける」の戦略:外部との交流と人づくり

島の生き残りのためには、人口減少に歯止めをかける必要があります。そして、これまで確認してきた「守り」と「攻め」の戦略も、継続して実行する「人」がいなければ単発の事例となり、持続可能性はありません。第3のポイントとして、海士町流の未来を見据えた「人」づくりについて考察したいと思います。
まず、Uターン、Iターンです。いずれの地域も人口を増やすために定住促進策を行っていますが、海士町でも一般的な住宅政策と共に、子育て支援を行っています。「海士町すこやか子育て支援に関する条例」に基づく各種施策は、財政の厳しい離島としては充実した内容となっています。まさに「守り」によって生まれた「未来への投資」です。結婚祝金や出産祝金、保育奨励金から、妊娠・出産に係る交通費島助成、中には不妊治療のための通院への助成もあり、チャイルドシート購入費助成などもあります。

しかし、最大の問題は、やってきたU・Iターン者の働く場、産業をどうするか、ということです。どの地域にとっても悩ましい問題です。新しい産業創出の試みは先のポイント2で確認しましたが、その他の動きもあります。
例えば、外からやってきた若者たちが立ち上げた「株式会社 巡の環」があります。この事業のひとつに海士「五感塾」があります。これは企業研修ですが、研修所を飛び出し現場で、島の人を講師として、「感じる力」を高め、「人間力」を磨くというものです。

平成26年度ふるさとづくり大賞において、この巡の環が団体表彰(総務大臣賞)のひとつに選ばれています。概要は「人口減少・少子高齢化・財政難といった日本の課題先進地である一方、なりゆきの未来を変え、地方創生に積極的に取り組んでいる離島・海士町を舞台に、地域づくり事業・教育事業・メディア事業を柱として活動している」とあります。評価された点は、「離島という地域でありながら、地域づくりに携わる人材を育てる人材育成産業を作る発想がユニーク」や、「地域づくりにおいては、地域内外のつながりを形成していくことが極めて重要である。そのためには、つなぐ役割を担うコーディネータが重要。このコーディネータ育成を通じての、地域イノベーションの実現に期待がもてる」などです。

巡の輪 阿部裕志代表取締役は、トヨタを辞めて、島で起業することを決意した経緯があります。「海士の面白さは、島にIターンしてくる人たちが、基本的に“攻め”の姿勢で入ってくる」ところであり、「島まるごと持続可能な社会モデルをしている面白い島がある」ことがきっかけといいます。そして、島が「「よそ者、若者、ばか者」を満たす人材に、しっかりと向き合ってオープンである」ことを指摘しています。一般的にIターンには閉鎖的な地域社会の壁が存在しますが、海士町のヒントは、「よそ者、若者、ばか者」が“攻めの姿勢”で入り、地域が彼らをオープンに受け入れた、ということでしょう。

また、島根県立隠岐島前高校の「魅力化プロジェクト」「どきどききらきら 島留学」などの取り組みもユニークです。特別進学コースと地域創造コースを設置し、島外からの「留学生」を受け入れています。少子化で全国の公立学校が統廃合に直面している中、ここでも海士町独自の取り組みがなされています。

海士町では、こうした外部との交流から刺激を受け、「自立する人」をつくることが重要と考えています。先の五感塾の取り組みや、島外から研修生を受け入れて商品開発をすることによって、外へ島の文化や活動、あるいは想いを伝えることができ、内では「外の目」を通して島の良さを再発見し、自らの誇りを確認することができるでしょう。こうした活動が、「人づくり」=地域づくりにつながっているのです。

ただし、外部との交流と刺激は大事にしていますが、コンサルタントを使わないといいます。先の阿部氏も「他の地域で成功しているモデルをそのまま持ってきたり、専門家に答えを求めるといった外の力に過度に依存していないから、海士は独自の進歩を続けてこれた」と指摘しています。「成功例」を視察して、そのまま模倣して地域活性化を…、あるいは、コンサルタントに全て丸投げという地域が多々ありますが、自分の頭で考えて行動しなければ成功しないということでしょう。

【まとめ】地方創生を成功させるには?

海士町の取り組みから明らかになったポイントは、(1)「守り」の戦略としての身を切る行財政改革、(2)「攻め」の戦略による島をまるごとブランド化、(3)「続ける」ための人づくり、でした。

最後に地方創生のための3つのポイントを改めて整理したいと思います。
第1に、民間任せやコンサルタント任せのような他人任せではなく、まず自分から身を切り、改革を実行することです。地方創生は公共部門がまず変革し、本気を見せることが必要です。
第2に、地域の名産を商品化し、地域ブランド化することです。そして他の地域と差別化した情報を発信します。地方創生には公共部門と民間部門が連携してこれを実行しなければ成立しません。こうして地域の存在意義を内外に示します。
第3に、単発に終わらせず持続性を確保するために、人を増やし、育てることです。地域社会がオープンに受け入れ、外の刺激を受けることが重要です。そして、次世代=未来に投資しなければなりません。

これらのポイントは、1つだけでは成立しません。地域ブランドにはどの地域も取り組んでいますが、全てが成功するわけではないからです。地方が生き残り、創生するためには、未来を長期的に展望し、公共部門と民間部門、地域社会の内と外が相互作用しながら、互いに成長していくしかないのではないでしょうか。

<参考文献>
隠岐郡海士町 http://www.town.ama.shimane.jp、
島根県立隠岐島前高等学校 http://www.dozen.ed.jp、
(有)隠岐潮風ファーム http://www.oki-shiokaze.co.jp、
株式会社 巡の輪 http://www.megurinowa.jp、
山内道雄(海士町長)『離島発 生き残るための10の戦略』生活人新書、NHK出版、2007年、
株式会社 巡の輪(阿部裕志+信岡良亮)『僕たちは島で、未来を見ることにした』木楽舎、2012年